結構な腕前で!
「で、でも。壺がないなら、どうするんですか?」

 踊り食いはご免被りたいが、部室までの道が落とし穴だらけになるのも困る。
 普通の落とし穴ならまだしも、どこへ行くやらわからん危険な穴なんてとんでもない。

「しょうがないですから、固めて持って帰りますよ」

 言いつつ、せとかは萌実の手を取った。

「てことで、一気に片付けてしまいましょう」

「え、えっと。ちょ、ちょっと待って。落ち着かせて……」

 せとかに後ろから両手を掴まれるのは初めてではないが、今はただでさえ密着しているのだ。
 落ちそうになったところを助けられて、そのまま。

 ここぞとばかりに萌実が離れなかったのもあるが、助けられてそのままな分、離れるスペースもなかったのだ。
 ちょっと動けば煙の川に落っこちそうである。
 その分、いつもよりもべったりと、萌実の背中はせとかの胸に引っ付いている。
 肩にせとかの顎が乗る勢いで喋られると、高血圧でどこぞの血管が破れそうだ。

「土門はとりあえず、その辺に腰を落ち着けて、吹っ飛ばないようにしてください」

「押忍」

「行きますよ」

 ひゃ~~、と焦る萌実など無視し、せとかが握った手に力を入れた。
 途端に、カッと手の平が熱くなる。

「粉砕っ」

 せとかが言った途端、ぼわ! と辺りが明るくなり、次の瞬間には、どーん! と地響きが起こった。
 その衝撃で、ばらばら、と塊になった煙の欠片がその辺りに散らばる。

「うおぉっ。凄い」

 土門が少し離れたところで、両手をついて目を丸くしている。
 土門の巨体も若干動いたぐらいだが、萌実はせとかがしっかり掴んでいてくれた。
 光が消え去ると、目の前の廊下は煙の欠片が散らばっているだけで、普通に戻っている。
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