結構な腕前で!
 ぐるぐる考えていた萌実は、自分がじーーっとせとかを見ていたことにも気付かなかった。
 ややあってから、ごほん、と咳払いが聞こえた。

「失礼。気を悪くしましたか?」

 せとかに言われ、は、と萌実は我に返った。

「あ? え? いえ?」

「いや、何か納得いかないような顔で見てるから」

「あ、すみません。いえ、そういうんじゃないです」

 まさかせとかの笑顔に見惚れていたとは言えない。
 が、はたして何の話をしていたかも忘れた。
 あははは、と曖昧に笑い、萌実は意味なく手を振った。

「ま、南野さんの言いたいこともわかりますよ。確かにあの二人よりも、せとみのほうがよっぽど罪は重い。余罪がありすぎますからね」

 うん、と頷き、せとかが穏やかに言う。
 そうそう、そういう話をしてたんだった、と萌実は身体をせとかに向けた。

「そうですよ。せとみ先輩、元々さぼり魔じゃないですか」

「まぁ言ってしまえば、はるかに命じた道場の掃除は、罰ではないんですよ」

 面白そうに、せとかが言う。
 ん、と萌実が首を傾げると、せとかはちらりと廊下のほうに目をやり、少し身を乗り出して声を潜めた。

「掃除は土門の仕事ですしね。茶道部に籍を置く以上、多少なりともうちの仕事もして貰います。で、奴の目当てははるかなので、はるかに道場の掃除を命じたわけです」

「えーと。つまりせとか先輩は、あの二人をくっつけようとしてるんですか?」

「せとみよりはいいでしょう?」

「……う~ん……。私はガチムチはあんまり」

 萌実が首を傾げながら言うと、またせとかは、あははは、と笑い声を上げた。

「そうですか。ま、南野さんのことは、僕が守ってあげますよ」

 うわぁっ! と萌実は心の中で叫び声を上げた。
 その笑顔で、そのセリフ!
 スマホの録画を起動していなかったのがつくづく悔やまれる。
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