結構な腕前で!
「でも確かに、着物が汚れますもんね」

「そういうことです」

 そう言って、せとかは萌実の菓子きりを取ると、柄杓で掬ったお湯で洗った。

「はい。南野さんは元々浄化能力が優れてますから、別に洗わないでも大丈夫なんですけど。今日は野点で、地面に突き刺してしまいましたしね」

「さっきこれでお菓子を食べるのはよろしくないって言いませんでした?」

「通常はね。南野さんは特別です。魔を食べても多分大丈夫ですよ。今日は壺がありませんし、その魔、食べてみますか?」

 思い切り引いて、萌実はぶんぶんと激しく首を左右に振った。
 心なしか、せとかは若干残念そうな顔をした。

「南野さんそのものが、壺みたいなものですからねぇ」

「……あの、あまり嬉しくないです」

「そうですか? 楽ちんだと思うんですけど」

 何てことのないように言い、せとかは萌実を手招きした。

「じゃ、次は南野さんがお茶を点ててください」

「あ、はい」

 立ち上がり、せとかと場所を交代する。
 とはいえお茶の手順は難しい。
 まだ完璧ではないので、わたわたしていると、せとかが後ろから手を添えてくれる。
 いつものことながら、萌実の至福の時間だ。

 嬉しいが、緊張するのもある。
 怪しく視線を彷徨わせながら、萌実は思い出したように、視線を遠くに投げた。

「そうだ。あの、あの辺て北校舎ですよね。さっき、何か霞んでたんですけど」

「北校舎?」

 せとかも萌実の視線を追う。

「ちょっとあそこら辺て気の流れが違うんですかね。入学当初から、何となく苦手なんですよ。北校舎っていうぐらいだから、ありがちかもですけどね」

 あはは、と明るく笑う。
 が、背後のせとかは無反応。
 こちらが笑っているのに何の反応もないのはちょっとキツイ、と思いつつ、少し振り返ってみた。

「先輩?」

「あ、いや。なるほど、確かに」
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