結構な腕前で!
第十八章
 次の日、萌実は一日にまにましていた。
 放課後が待ち遠しくて仕方ない。

「萌実は今日も部活ありなの? そんなんでテスト大丈夫?」

「大丈夫大丈夫。何たってせとか先輩自ら教えてくれるって言うんだもん」

 友達の心配をよそに、萌実はへらへらとVサインを示して見せた。

「ああ、あの暗い先輩」

「暗くないよっ。物静かっていうの」

 実際は物静かとも言えないのだが。
 少し前に急上昇したせとかの人気は、打ち上げ花火のように一瞬で下火になった。

 やはり長い髪で隠れた顔に神経質そうな銀縁眼鏡だと暗く思われるようだ。
 もっとも萌実からすると、ありがたい評価だが。

「わかんないよねぇ。やっぱり片割れの先輩のほうが格好良いわぁ」

 ねーっとクラスメイトたちは盛り上がる。
 言ってろ、せとか先輩の格好良さがわかるのは私だけで十分! と内心思っていると、いきなり廊下に面した窓が開いた。

「何、俺の話?」

 廊下から顔を覗かせたのはせとみだ。

「萌実ちゃん、部活行こう」

 教室中に響き渡る声で呼ばれ、萌実は慌てた。
 すぐに友達どもが、にやにやと突っ込んでくる。

「ちょっと萌実。結局あんたもあっちなの」

「そうね、同じ顔だもんね。明るいほうがいいわよね~」

「ちっがーーーうっ!!」

 私の狙いはせとか先輩なのっ! という言葉はぐっと呑み込む。
 クラス全員に宣言することでもないし、まして兄弟であるせとみの前で言うことでもない。
 否定の言葉だけに留め、萌実は鞄を掴むと、急いで教室を出た。
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