結構な腕前で!
「な、何でいきなり誘いに来るんです」

 早足で教室から遠ざかりながら萌実が言うと、せとみは少し拗ねたような顔をした。

「だって昨日は俺、ずっと野郎と道場に籠ってたっていうのに、せとかは悠々と萌実ちゃんを誘って野点って。抜け駆けじゃん」

「いや何も土門くんと二人ってわけでもないでしょうに」

 魔もいる。
 ただそれをカウントしていいものかは謎だが。

「だから今日はさっさと萌実ちゃんを確保しないと……て、どこに行くのさ? 部室はあっちだよ?」

 真逆の方向に急ぐ萌実に、せとみが不思議そうに言う。
 が、萌実は足を止めずに振り向いた。

「今日は図書室でせとか先輩とお勉強です」

「えー、何それ」

 不満顔のせとみが、急ぐ萌実を追いかける。
 せとみを置き去りにする勢いでずんずんと進んでいた萌実は、しばらく進んで、あれ、と顔を上げた。

 確か図書室は北校舎だ。
 それに気付いたとき、背後の足音がぴたりと止まった。

「せとか、よく承知したねぇ」

 聞こえた声に振り向けば、せとみが立ち止まって萌実を見ている。

「どういうことです?」

「だって図書室って華道部のすぐ近くだよ?」

 図書室のある北校舎は、華道部も入っている。
 元々北校舎というのは、一階に小道場、二階は中央の廊下を挟んで図書室と華道部の部室があるだけなのだ。
 萌実は昨日まで図書室の向かいが華道部の部室だとは知らなかったのだが。

「でも前にせとか先輩、図書委員してましたよ?」

「昼休みだろ? 昼は部活やってないじゃん」

 つまり華道部が稼働し始めると不都合、ということだろうか?
 図書委員は放課後もやっていたが、奥の倉庫がメインだったのは理由があったのだろうか。
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