結構な腕前で!
---それでもいい! 手を繋いでくれるってことは、少なくとも嫌われてはないってことだもん!---

 だとするとチャンスはあるわけだ。
 一人浮かれていた萌実だが、いきなり吹いてきた強風に、バランスを崩しそうになる。
 山頂はさすがに風がきつい。

「う~ん、やっぱり手を繋いでおかないと危険ですね」

 せとかも、よろよろしながら、かろうじて前に進む。
 やはりお互いの命綱だったらしい。

 拓けている、とはいっても、広場があるわけではない。
 大きな岩がごろごろとある、ちょっとした足場だ。

「こんなところ、潜むところもなさそうですねぇ。山頂までは登らなかったのかな」

 せとかが、僅かな足場に登って、きょろ、と見回した。

「でもなかなか眺めは圧巻です。見てみます?」

 岩場に座り込み、せとかが萌実を引っ張った。
 せとかの助けを借りて、萌実も岩山によじ登った。

「……うわ」

 岩場から下を見下ろした瞬間、萌実は、くら、と眩暈がした。
 さっきまでの景色と全く違う。
 場所もそう移動したわけでもないのに、周りの足元全てが崩れ去ったようだ。

「こ、怖いです」

 びゅおおっと吹き上げてくる風は、気を抜けばあっという間に足を取られそうだ。
 人が二、三人立てるほどのスペースは、当然手すりなどない。
 岩場の向こう側は、断崖絶壁だった。

「少し下で休んでいた兵士たちが、追われてここまで来てしまったら、後は……」

 へたり込む萌実のすぐ横で、せとかがぽつりと呟いた。
 まさにここは、追い詰められた兵士の最期の場所だ。

「南野さん!」

 強く名を呼ばれ、は、と萌実は我に返った。

「大丈夫ですか?」

 顔を上げれば、せとかが至近距離で覗き込んでいる。
 うわ、と飛び退こうとしたが、幸いと言うべきか、へたり込んでいたので大きくは動けない。
 お陰で崖から落ちることはなかったが。

「何か感じたようですね」

 気付けばせとかは、がっちりと萌実の肩を掴んでいる。

「何か、吸い込まれそうだったので」

 さらりと恐ろしいことを言い、せとかは萌実の肩に置いていた手をそのまま滑らせて、再び手を繋いだ。
 離したら、萌実が向こう側の谷底に引っ張られるとでも思っているかのようだ。
 そう思い、萌実はぞくりと背筋が寒くなった。

 そのまませとかは、萌実の手をしっかりと掴んだまま、無言で部室まで山を下りた。
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