結構な腕前で!
「あ、えっと。あの、素手で魔に触れちゃって……」

 慌てて言うと、はるかは、ああ、と呟いて煙を砕いた手をひらひらと振って見せた。

「大丈夫よ。そんな長い間じゃないし。ほら、私たちには守りの力があるからね。そっちの力は、せとかよりも強いし」

「素手で触らないに越したことはないですけどね」

 じゃぶ、と柄杓を釜に突っ込んで、せとかが言う。
 魔を散々叩きのめした柄杓をそのまま使うのもどうなのだろう。

 何か、皆見かけによらず大胆だ。
 もしかすると、せとみが一番繊細かもしれないと、萌実は内心ひっそり思った。

「南野さんなら、素手で戦っても全然大丈夫ですよ」

 見かけによらず大胆なせとかが、しゃくしゃくとお茶を点てながら言った。

「そうなんですか? あ、守りの力が強いから?」

「そう。邪気を祓う力もプラスされてますしね。ボクシングとか柔道の心得があればいいんですけど」

 そんなもの、あるわけないだろう。
 一体せとかは、どういう目で萌実を見ているのか。

 というか、せとかが何か興味を持って人を見ることがあるのだろうか。
 恋愛に関しては、とんと疎そうだ。

---彼女はいないって言ってた。好きな人もいないのかな---

 これまで見てきた限り、せとかを好いている風な人はいないようだ。
 せとか自身も、学校ではいつもぼーっとしていて、誰かを気にしている感じは皆無。

---先輩、部活以外では眼鏡かけてるし髪は長いし、暗い感じだから敬遠されてるのかもな。でもこの格好良さを知られたら困るし---

「どうぞ」

 は、と顔を上げれば、せとかが茶碗を差し出している。

「いただきます」

 茶碗を取ろうとした萌実だったが、その手がふと宙で止まった。
 茶碗が置かれた畳の縁から、もわんと煙が上がったような。
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