結構な腕前で!
「えいっ!」

 思わず萌実は、咄嗟に拳を煙に打ち付けた。
 しゅっと音がし、煙が、ばら、と砕ける。

「おおっ」

 せとかが珍しく、感心したような声を上げた。

「すごーい、萌実さん」

「気配も気付かなかったわ~」

「「それでこそ、我ら茶道部の一員よ~」」

 あまり嬉しくないのは何故だろう。
 知らぬ間に、この物騒で妙な茶道部に馴染んでいる自分が少し悲しい。
 常人からかけ離れていくような。

 煙を打ち砕いた自分の手をじっと見ながら、若干落ち込んでいる萌実を尻目に、双子は嬉しそうに煙を回収し始めた。

「この壺、一度浄化しましょう」

「結構いっぱいだしね」

「「ちょっと結界の間に行ってくるね~」」

 賑やかに騒ぎながら、双子が部屋を出ていく。
 しん、と静寂が訪れた茶室に、しゅんしゅんと湯の沸く音が響いた。

「……あ、お茶、いただきます」

 はた、と我に返り、萌実は茶碗に手を伸ばした。
 と、不意にその手をせとかが取る。
 どきん、と萌実の心臓が跳ね上がった。

「あ、あの。先輩」

 せとかは真剣な顔で、握った萌実の手を見ている。
 ぼーっとしていても萌実にとってはそれなりにイケてるせとかなのに、今は萌実の大好きな、きりっとせとかなのだ。
 そんな顔で手を握られたら、どうにかなってしまう~! とくらくらしていると、ぱ、とせとかが握っていた手を放した。

「うん、素手で魔を叩いても、やっぱり何ともないようですね」

 そう言って、ずい、と萌実に顔を寄せる。
 ぎゃー! っと心の中で悲鳴を上げ、だがせとかに迫られるのは嫌ではないので、仰け反りそうになる身体は、ぐっと抑える。

「特に何も感じなかったですか?」

「あ、え、えっと。そそそ、そうですねぇ」

 ああ、何でこの整った顔をわざわざ隠すようなことをするのだろう、と萌実の思考は停止気味な上に、魔のことなどよりせとかに占められてしまう。
 さっきの魔には何も感じなかったけど、今どきどきしまくってます! と口走りそうになる。
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