結構な腕前で!
 ああ、ばれてしまった、と思ったが、考えようによってはいいかもしれない。
 元々せとかに彼女はいないわけだし、もし好きな人でもいれば、せとみ経由で教えて貰えるかもしれない。

「まぁ……否定派しません。あ、でも雰囲気が違うっていうのは、相手を好いてるから、そう思うんですかね?」

「どうだろう? そう言われると、意識が片方にばっかり行ってるから、よりそっちの印象が強くなるっていうのはあるかも」

「なるほど。せとみ先輩は、まさしくそれですね。橘先輩は、私には全く見分けつかないし。よほどどちらかに意識が向いてないとわかんないですよ」

 ふむふむ、と頷いていた萌実は、ん、と動きを止めた。
 あれ、もしかして私、口滑らした?
 横を歩いていたはずの、せとみの足が止まっている。

「えーと。せとみ先輩?」

 恐る恐る振り返ると、じ、と見るせとみの視線とぶつかる。

「萌実ちゃん」

 真剣な表情で、せとみが一歩萌実に近付いた。
 やばばばば、と内心汗だくになるものの、口から出てしまったものは取り消しようがない。
 無理やり萌実は笑顔を作った。

「はい、何でしょう」

「今の、どういうこと?」

「えーっと? あ、私がせとか先輩を好いてるってことですか? うん、実はそうなんです。つかそうでもないと、こんなおかしな茶道部に入りませんて。先輩が茶道部ってことは意外でしたけど、でも中等部のときも、結構大人しめでしたし、納得してたんですよね。まぁ実際は大人しいどころか並みの運動部よりも激しい部活だったわけですけども」

 何とか誤魔化そうと、萌実はべらべらと聞かれもしない己の気持ちを暴露した。
 が、せとみの表情は変わらない。

 萌実が口を噤んだことで、しん、と沈黙が落ちた。
 しゃわしゃわと、蝉の鳴き声だけが辺りに響く。

 たっぷり間をあけてから、せとみが片手で顔を覆って、はあぁ、と大きくため息をついた。
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