【【贅沢な片思い】】ヤツの所には行かせない!
迷っていた。
男を通報するか、それともしないか。
確かに店員が客の手を唐突に握ることは、犯罪まがいの行為だ。
だが、告発したら、この男はどうなるのだろう。
おそらく、警察を呼ばれる。
男はオーナーに怒られる。
店を辞めさせられる。
裁かれる。
人生が真っ暗になる。
しかし、わいせつな行為を黙って許していたら男の行動は、この先もっとエスカレートし、私でない他の女性にも危害が及びそうだ。
芽衣は、考えた挙句、決心したように店員を見た。
「あの…連れは来ないんですが、何か食べて帰っても?」
食べたい気分じゃないが、この男とは、少し話をする必要がある。様子を窺い、やはりひどい男だと判明したら、その時は堂々と告発しよう。
「はい、もちろんどうぞ。只今メニューをお持ちいたしします」
笑顔で応対してくれた男の店員。
ウェーブがかった髪の毛が、動くたびに元気に跳ねて可愛らしい感じのする若い男の子だった。
その子が男の方へ顔を向けた。
「…オーナーも食べていかれます?」
「えっ?」
芽衣は若い店員を驚いて見上げた。
今、この子『オーナー』って呼んだよね?