【【贅沢な片思い】】ヤツの所には行かせない!
「あんたさ」
梨田は、あさっての方を向いて考え込む芽衣に話しかけてきた。
「え? あのね、ちょっと…言いにくいんだけど他には度の強いメガネをかけていた男の子の思い出がなくて」
「違う違う。俺はメガネなんかかけた事がないから。大体、俺がいつメガネくんだったって言ったんだ?ん?」
馴れ馴れしく芽衣の額を梨田は人差し指でちょんと突いた。
「ちょっと、何? メガネくんじゃないなら、全然あなたなんてわからないわよ」
キレ気味に言って、芽衣は突かれた額を掌で押さえて梨田を睨む。
「そんなガキみたいな過去の話じゃない。最近だよ、あんたが俺に会ってんのは、最近だから」
「最近?」
ますますピンとこない。こんなイケメンなら嫌な記憶として頭に残りそうだが。
いや、違うかな。
イケメンのことは普段からあまり見ないようにしている。イケメンっぽい気配を感じた時はなるべく意識して関わらないようにしてきた。
だから、この男を全く思い出せないのは、無理もない。
「わかんない? 俺、伊野夫婦の披露宴で友人代表のスピーチやってたんだけど」
「そう?あの日は私、すごく泣いてたし…コンタクトも片方なくしたりして…真知子の写真撮りまくってたからスピーチの人がどんな人かなんて全然興味もなかったし、記憶にもないわ」
感動し過ぎて真知子の披露宴では、ずっとグスングスンと泣いていた。泣きながら、真知子の綺麗な花嫁姿は今日しか見れないんだからと、目に焼き付けるのと、写真を撮るのに忙しかったのだ。
あの日は真知子の花嫁姿しか記憶にないと言ってもいいくらいだ。