【【贅沢な片思い】】ヤツの所には行かせない!
「いー香りすんね、芽衣って」
芽衣の髪に鼻を寄せてから梨田は運転席に座り直した。
微妙な空気が流れている。
ゆっくりしたテンポの洋楽を流し梨田は車を発進させた。
あれだけ饒舌だったくせに、今は何も話さない。
気になって、梨田を窺う芽衣。
「暗いわね。が、街灯が少ないのね」
「うん、そーだね」
しーん。
会話が続かない。
「ねぇ、どうかした?」
「ん?なんで」
モテ男のクールな横顔を眺めていた。
「しゃべらないから」
「ん〜〜なんていうのかな。もう、切ない気分になってきてさ」
「え?どうして」
「芽衣ともうすぐで離れるかと思うとね」
胸がきゅんと締めつけらた。
モテ男の手口なのに。騙されちゃだめなのに。
なんとか別の話をしなきゃ。
「なんか…すごくお腹空いた。どっかで食べていかない?」
「そーだな。せっかくだから刺身定食でも食べる?」
「なんでもいい」
「そっか。じゃ、刺身定食とあったかい豚汁でも食べに行こ。たしか、あそこなら、かき揚げもうまかったしな」
過去の経験を思い出すように言う梨田。
そんな梨田を見て芽衣は胸に痛みに似たものを感じていた。