【【贅沢な片思い】】ヤツの所には行かせない!
ばかみたい。
マメなら、最後までマメでいればいいのに。
定番コースなら、夕日を見る時間帯は寒くなるってわかっているはずでしょうに。
帰りは寒くなるから、自分のシャツを貸さずに済むようにブランケットを入れておくとか工夫をしとけばいいのに。
いつもの事なら、
計算づくなら、
モテるためなら、
それくらい用意しとけば良かったのに。
「風邪ひいたんじゃない?」
「え?」
「わたしにシャツなんか貸すから」
車のドアを開け先に芽衣は助手席に乗った。
運転席に乗り込むなり、梨田がにやけた。
「もしかして芽衣さ、俺を心配してくれてるとか?」
「…心配とかじゃなくて」
「いやいや、これは心配してくれてんだよな。サンキュー、芽衣。俺、嬉しいよ」
シートベルトをして窓の方を向く芽衣。
心配とかじゃない。
気になっただけ。わたしのせいなら、少しだけ申し訳ないから。
梨田は、車のエンジンをかけた。
「芽衣、シートベルト捻れてる」
「え?」
芽衣のシートベルトを一旦外してねじれを直す梨田。
梨田の顔が芽衣の顔に近づいたので、芽衣はまたドキドキしていた。
シートベルトのねじれを直してくれてるだけ。
それだけだ。
「芽衣」
2人だけの車内。
密室。
息をするのが苦しくなってきていた。