妹の恋人[完]
まさか自分へのプレゼントだとは思っていなかったのだろう。

すごく不思議そうな顔をして、そのあと顔を赤くしたと思ったらうれしそうに受け取った。

「たまには、絵本もいいかな、なんて」

いつも教科書や参考書を読んでいる姿を見ていて、違う本を読んでいる姿が見たかった。

けど、勉強の妨げになるようじゃ意味がないし、息抜きになればと。

はじめは写真集を探していたけど、ピンとくる景色や絵画に出会えず、たまたま見つけたのが絵本コーナーだった。

「忘れていた、小さい頃の素直な気持ちを思い出せたよ」

まっすぐ、好きな人を思う温かい気持ちを。

どんな人でも、大人になれば忘れてしまう何かってやはりあるんだと実感していたこの頃。

そんな俺の心に、とても広がったこの絵本を、どうしても高橋さんにプレゼントしたかった。

「バイトとかしてないから、高価なものじゃなくてごめんね」

俺の手から受け取った絵本をぎゅっと握りしめた高橋さん。

「ありがとう」

うれしそうに再びお礼を言うと、ギュッと俺の左手にしがみついてきた。

「すごく、うれしい」

絵本を大切に抱えながら、再びバスに乗り自宅を目指す。

バスの中では絵本にまつわる思い出の話などをしていたら、あっという間に最寄りのバス停についてしまった。
< 143 / 587 >

この作品をシェア

pagetop