妹の恋人[完]
「いらない・・・」

少し落ち着いたのか、ようやく涙の止まったカナコが、床に座っている俺を見ながらつぶやいて。

「そっか」

俺も、それから口を開くことなく、じっと黙っていた。

「あのね」

「うん」

「私、どうしても一緒に行かなきゃだめなのかな?」

座っていた椅子から降りて、俺の前にペタンと座り込んだカナコ。

両手で膝をぎゅっと抱きしめてから俺の顔を見上げた。

その顔はとても真剣で。

数分前まで泣いていたとは思えないくらいで。

「カナコは、どう思う?」

あえて、俺の考えは口にせずに問いかけてみた。

俺としては、やはり自立できるようになるまでは親元で過ごすのがいいような気がする。

それに、海外での生活もなかなか機会がなければできないわけで。

俺よりも若いカナコだから、きっと楽しいことも沢山あるんじゃないかと。

カナコや父さん達と離れて生活するのは、正直さみしいけど。

「私は・・・ここに、残りたい」

はっきりとしたカナコの言葉に、迷いがないんだとすぐにわかった。

でも、ついさっき聞いたばかりの転勤の話に、そんなに簡単に結論が出せるのだろうか?

もう少し、一緒について行くことも考えた方がいいんじゃないだろうか。

「アメリカでの生活も、考えてみてから結論出してもいいと思うけど」

「おにいちゃんは、私と一緒にいるのが嫌なの?」

再び、カナコの目から大粒の涙がこぼれた。
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