アレキサンドライトの姫君
それは半月ほど前のこと。
ハインリヒ王国のこの王宮で、アーデルベルト13世国王の即位20周年を祝う記念式典が行われていた。
その来賓の数は国内外の王侯貴族・僧侶、約300人。
その夜のことだった。
宮中では招待客を持て成す晩餐会が催され、鼠一匹侵入不可能とされる程に厳重に警備された城壁を見回っていた衛兵の一人が見慣れない老人からこの紙を預かったという。
「ディルク王太子殿下に渡して欲しい」…と。
名や身分を問い質そうとした瞬間、吹き付けた突風に衛兵は気を取られその隙に老人は忽然と姿を消してしまったらしい。
小包のようなものだったら暗殺目的の爆薬や劇薬などの恐れもあり軍の方で処理されるが、手渡されたそれがただの紙切れだったこともあり、しばらくしてディルクの元へ届けられた。
勿論、紙になんらかの薬が塗られている可能性や仕掛けがあるかもしれないと様々な方法が試されたらしいが、別段怪しいところも見つからなかった為 安全と判断されたらしい。
ただ、そこにあるのは見知らぬ不可解な文字。
宮廷には博識の者も多いがそれら全ての知識を以ってしても解読不能だったが、ある学者の人脈で国外の者の知識を借り、どうにか解読に至った…。
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