アレキサンドライトの姫君

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またもや見慣れない言語の文字が綴られている紙切れ。しかし、以前のものとは違う言語であることは明らかだった。
何故なら。

「これは…見覚えがあるな」

そう呟くディルクの隣で、エーデルは記憶の糸を手繰るように言語の意味を紐解いていた。
エーデルにも見覚えのあるそれは、昔、幼いエーデルに祖母が読み聞かせてくれた童話の書物に綴られていたものだったからだ。

「ディルク様。これは…古(いにしえ)のヴァルトニアの言語です」
「ヴァルトニアの…消えた言語か!」

エーデルの囁きに閃いたように声を張って顔を上げたディルクが目にしたのは、不安げに表情を曇らせた招待客だった。

「ディルク。今はこの場の事態を収束することに努めろ。夜会はまだ終わっていない。『それ』は後にしろ」

いつの間にかディルクの傍に歩み寄ってきていた国王に嗜めるように低く小声で告げられて、

「申し訳ありません」

紙を折り畳みながら胸元へと押し込むと、ディルクは適当で最もらしい虚言を並べて招待客を納得させた。
先程の不穏な気配を貴族たちの記憶から消し去ろうとせんばかりに、中断されていたダンスも食事も再開させ終宴へ向けていた夜会は更に華やかさを増して、王宮の優雅な雰囲気へと取り戻していった。
王子とその婚約者であるエーデルが一時とはいえ夜会の雰囲気を壊した失態を国王自らが招待客へ謝罪し、その上でまだ至らないこの若い二人の婚礼を見守りながら皆に教示願いたいと低頭までして見せたことで、貴族たちは尊敬の念と感動と約束の意味を込めて盛大な拍手で広間を満たし、夜会が締め括られた。
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