アレキサンドライトの姫君

-3-

ーーーこれは…会話?

近くで、誰かが話をしている声がする。
よく知っている…、忘れもしない愛しい人の声と。
聞いたことのない声。
でも、少し彼の声と似ている気がする。

それが夢なのか現なのか。
区別のつかないほどの揺蕩うような微睡みの中、瞼が重くて開けないままなんとなくその会話に耳を傾けた。

「本当に…美しい人だね」

知らない声がそう聞こえた直後、ふわりと頬に何かが触れ、思わず睫毛を揺らしてしまう。

「エーデルに触れるな。彼女は私のものだ」

この声は、彼だ。
会いたくて会えなくて、恋い焦がれて、耳の奥で何度もその記憶の声を思い出して再生させていた、あの声。

「初めて彼女と会った時、一目で恋に落ちた。造形的な美しさだけではない、彼女の内側から溢れるような高潔さに私は捉われた。エーデルは私だけのアレキサンドライト。私以外の男には指一本触れさせない」
「本当に噂以上の美しさだよ。それに、こんなに瑞々しく滑らかな肌…まるで完璧な美を詰め込んで作られた陶磁器人形(ビスクドール)だ。兄さんがご執心の理由がよくわかったよ。そりゃ、何度もお忍びで国を出て会いに行くはずだ」

兄さん…?
ああ、兄弟だから声が似ているのか。

「エーデル……」

静かに、それでも抑えられない熱情が漏れる吐息にまで現れ、名を呼ばれながら髪を撫でられた。
心地よい温もりに眠気が増していく。

「狡いよ、兄さん。彼女がアレキサンドライトなら、僕にだって手に入れる権利があるのに。この際、出会った順番なんて関係ない。僕も彼女に求婚する」
「何……っ!?」

求婚…?
何の話をしているのだろうか?
睡魔に拘束された思考はうまく働いてくれず、ただ今にも眠りの底へ落とされてしまいそうな感覚の中どうにか聴覚だけでも…と試みるが、敢え無く睡魔の誘いに陥落してしまう。
その会話が徐々に遠く薄れていく。
エーデルは再び夢路を辿るように眠りに就いた。
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