ナミダ列車








────そこは、日光の中でももっとも神聖な空気が漂うスポット。

同じ地球上にあるはずなのに、世界の一断片に過ぎないはずなのに、まるで異世界にいると錯覚してしまう。




奥日光は、日光市街地の標高約600メートルに比して、それより600メートル以上高い場所にある。

夏でも冷涼で、日光市街が梅雨空だったとしても奥日光は晴れていることがあったり、秘境として知られている。

日光市街地に比較すると、歓楽的色合いはほとんどなく、明治以降になってから静寂な避暑地や温泉保養地として名を馳せていったらしい。





奥日光という地域は、一般的には、竜頭の滝より上の日光連山の西麓から金精峠の東麓にかけた地域を指す。

狭義にはこの地域の国有林地のうち「奥日光」の住所地を指すのだけれど、中禅寺湖畔を含める場合や、日光市に接する群馬県利根郡片品村の金精峠西麓も含めることもあるのだそう。

市街からいろは坂を登り、海抜高度1269メートル、日本屈指の高さを誇る中禅寺湖畔へ。

あの時もベンチに座って雄大な湖を眺めていた。





吹き付ける湖風。

太陽の日差しは暖かく、

木々は騒めき、私の髪を揺らす。



また来たい。

何度だって行きたい。

永遠に続けばいいのに、と思うくらいに……幸せな時間だった。

はずなのに、











「泣かないで」



優しく切なげな問いかけに、ふと、私の意識はこちら側に引き戻された。


あれ……?

なんで。

ハルナさんは何を言っているんだ…と疑問に思いながら目元に指をやって驚いた。




私は意図せずに涙を流していたからだ。





< 100 / 189 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop