ナミダ列車
……もうこんなところまで来たのか。
栃木市の真北にある鹿沼市は日光市にも隣接している大きな街だ。
栃木県の県庁所在地の宇都宮市の西側。
県南にある栃木市から随分と北上してきたのだな…と、旅の情緒を味わいながら乗客が行き来しているホームを眺める。
「あっ!ついた!」
「おやおや…、降りねえといけねえべ」
ふと、車窓に向けていた視線を隣に戻す。
「降りられるんですね」
「うん…、短い間だったけど…世話になったねえ」
「オネーチャンありがとう!ミユ頑張るね!」
東武金崎駅を出発して間も無く乗車して来たミユちゃんたちにとって、新鹿沼駅が降車する駅だったらしい。
ボックス席に乗り込んで来た人が一人、また一人と電車を降りてゆく。不思議だ。
普通、ただ席をともにしただけ。たかが数十分。名前も何も知らない人とこんなに話し込むのだろうか。
「……っ…」
スケッチブックを抱きかかえて立っているミユちゃんの頭を撫でる。
そこから老婦人に目を配ると、彼女は口の端に皺を寄せ、噛みしめるように唇を震わせて私を見下ろしてくる。
綺麗な漆黒の瞳は確かに私を映す。
けれど、それが本当に私なのかと問われると疑問にも思う。なんだか、ゲシュタルト崩壊だ。
「……良い旅を。心からそう、祈っているよ…」