ナミダ列車
それから、おどけたように離れてくれたハルナさん。
そんな彼にホッと胸をなでおろす私に、「いやーやっぱりうまいね。絵を描くのが」なんて自慢げに声を張ってきた。
…何を自分のことみたいに。
あなたが誇らしげになる意味が分からないと思ったけど、とりあえず「ありがとうございます」とだけ返す。
「……ていうか、やっぱりって…私の絵、見たことないくせに」
「んー?あるよー?」
「……適当なこと言わないでください」
…知ったかぶらないで。
と、また観光マップを開き始める私から、ヒョイとそれを奪い取ってしまうハルナさん。
「…適当なことだと思う?」
私の胸の奥を探るように、下から覗き込んで視界に割り込んでくる彼に、思わず喉が鳴った。
「俺はいろはがどんな絵を描くのか、知ってるよ」
「……そんなはず、」
「繊細だけど、力強い。想いの全てがギュウギュウに詰まったキャンバスは、見るものの心を震わせる」
「……っ…」
「いろはが描いたものは…、まっすぐで、眩しくて、明日を見る希望を与えてくれるんだ、っていうことも」
物憂げな微笑みだった。直ぐに楽天的に「……んまー、信じるか信じないかはいろは次第だけどねー」なんて観光マップを返してくれたけれど、つい息をするのを忘れてしまっていたことに気づく。