ナミダ列車
……なんだろう。ビックリしたけれど、私の絵のコアなファンか何か?
美術展巡りが好きとか渋いこと言う?
唖然としすぎたからか、この未確認生物の存在に慣れてしまったからか、勝手にイチゴオレを飲む所作も難なく受け入れてしまう。
「イチゴオレだとかチョコだとか、本当に甘いものが好きだねえ、いろはは」
ケラケラと笑いながらも袋に手を伸ばすハルナさんは、ボリボリとアーモンドチョコを頬張っている。
「だから砕かない…!それにまたそんな分かったような口きいて…」
「ぜってーこうした方がうまいって。それに、知ってるんだもーん。さっきも言っただろー?俺はいろはのことをよーく知ってるってー」
「……ああ言えばこう言う…。この天パ星人…」
ハイキング客や、観光、温泉旅行客で賑わっている車内で、若者が向かい合って口論している。
まったく、なんでこんな人にムキになってしまっているんだ…。
シカトを決め込もうとした時、不意に溢れたのだろう失笑が耳を掠めていった。
「天パ、星人……か」
「はい?」
思いつきだけど、何か?
観光マップを開いたまま眉を顰める私とは違う意味で表情を崩しているハルナさん。
何処と無く嬉しそうに見えるのだけど…もしかしてドM?
「いや…、何でもない」
「そうですか」
つくづく変な人だ。
何考えてるのかサッパリだし、すごくどうでもいいところで不可解なアクションをしてくる。
最寄りの新大平下駅と終点の東武日光駅のほぼ中間地点にある新鹿沼駅を通過した。
線路の先がなくなるまで、
移りゆく景色が静止するまで、
非日常な旅は、残すところあと30分あまり……──。
それまでに私は、彼の正体を見破ることができるのだろうか。
そしてその真実を知った時、私は一体どう思うのだろうか。
「んで?観光マップなんか見て、随分熱心だよね。さっきから」
…新鹿沼駅を出発してしばらく、田舎風景は変わらずのどかだった。
東京にはあまり行ったことがないから比較しようがないし信憑性もないのだけれど、私は多分、こういう田舎町の方があっていると思っている。
いろんなインスピレーションが沸く。
命が命としていきいき芽吹く。
────それを感じたい。
「そりゃあ日光愛好家ですから」
「なんか渋いな…」
「…馬鹿にしないでください」