副社長のイジワルな溺愛

「おはようございます」
「おはよう。朝から悪いが、君に折り入って頼みたいことがある。室長、深里さんを少しお借りしても構いませんか?」
「私は構いませんが……深里さん、作業途中のものは?」
「先ほど保存しました」

 我ながら、三十分に一度データを保存する慎重さを恨めしく思った。


「では、遠慮なく」

 副社長に「行くぞ」と視線で促され、同僚の視線を大いに感じつつ、項垂れ気味で経理室を出た。

 タイミングよく到着したエレベーターから、これから始業時間を迎える他部署の社員が降りてきた。
 私たちを見るなり、噂が脳裏をよぎったような表情をされて、さらに私は気が重くなる。


「あの……頼みたいことってなんですか?」
「…………」

 話しかけても副社長は無言で、何も言ってくれない。
 勝手に経理室に来て、勝手な都合で連れ出したくせに。


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