副社長のイジワルな溺愛

 上階へ向かう、ふたりきりのエレベーター。気まずくて私も口を噤む。
 ポーン、と気楽そうな音が鳴って、空気を一層凍らせた。


 経理室に来たときは、それなりににこやかな方だったのに、二人になったらいつもの冷徹副社長に戻っていて、話しかけることさえ勇気が要る。

 彼はそのまま副社長室に私を入れて、奥にある大きなデスクを迂回すると、ハイバックのデスクチェアに大きくもたれた。


「今日は随分と気合が入っているな」
「はい」

 否定はしない。
 昨日のメールで伝えた通り、特別な先約があるからだ。それに、倉沢さんに片想いをしていることだって副社長は知っているはず。


「今夜の約束は、俺の誘いを断ってまで行く必要のある集まりか?」
「特別な約束です。私がずっと待っていたものです。申し訳ありませんがそちらが先でしたので、お断りさせていただきました」

 業務外の呼出だったのかと、肩を落とす。
 あとで経理データの作業で伺う予定だったから、その時話してくれてもよかったのにな。

 あんなふうに連れ出されたら、戻りにくくて仕方ないじゃない。


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