副社長のイジワルな溺愛
「今日はまた随分と気合入ってるね」
「時々は女の子らしくしてみたくなって」
「深里さんのセンス、私好きだなぁ。かわいくなりたいのは女子共通だし、よくわかります」
香川さんがいい人で良かった。噂のことも言ってこないし、仕事だって一緒に頑張ってくれる。
倉沢さんを気に入ってる様子なのが気がかりだけど、これだけは譲れない。
「おはようございます」
経理室が始業時刻を迎えて三十分ほどすると、出入口の方から聞き覚えのある声がして顔を上げた。
「副社長! いかがされましたか」
室長が驚いて席を立って向かう間、香川さんをはじめ女子社員が一斉にざわめいている。
普段あまり顔を見る機会がない副社長の登場に、見惚れてしまう気持ちが分からないでもないけれど。
「室長、おはようございます。深里さんに用があるのですが」
「深里さん、早く」
室長に手招きされて席を立ったけれど、ずっと噂に触れずにいてくれた同僚の視線が変わったように見える。