副社長のイジワルな溺愛

 映画館から出ると、すっかり空は日が暮れていた。
 横浜の街を吹き抜ける十七時前の秋風が少し冷たく感じて、トレンチコートのポケットに手を入れようとしたら、彼が繋いでくれた。


「……ポケットより、副社長の手の方が温かいかもしれません」
「そう?」

 素っ気ない返事をするけど、その手を握り直して指を絡められた。

 手のひらから伝わる彼の温もりが愛しい。
 誰にも知られたくない彼の一面を、ひとり占めしてしまいたくなる。
 本当は優しい性格と柔和な微笑み、不意に見せる流し目やキスの感触、穏やかで綺麗な寝顔……何もかも。


 大通り沿いにあったカフェで映画の感想を話していたら、あっという間に時間が過ぎた。
 十九時を回り、食事に行こうと彼が誘ってくれたのはランドマークタワーの最上階。
 彼は予約してくれていたらしく、六十九階からの見渡す夜景に、私は一瞬で感動してしまった。


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