副社長のイジワルな溺愛
突然、騒がしくなった周囲に目を配る。
数人が居合わせていて、誰のことを見ていいのかと視線を彷徨わせていると、正面入口が開いた。
「――茉夏」
やわらかな声が、耳を撫でるように聞こえた。
白い息の靄の向こうに、愛しい彼の顔が見える。
寂しすぎて幻覚まで見るようになったのかと、瞬きを数回繰り返すけれど、彼は消えない。
それどころか、一歩一歩確実に私の元へとやってくる。
「茉夏、ただいま」
五メートルほど先で立ち止まった彼は、二人きりの時に見せるような甘い微笑みを浮かべ、両腕を大きく広げて私を待っていて。
耐えきれずに幾晩も流した涙が、ようやく嬉し涙に変わった。
周りの視線なんて気にしない。
堂々と彼が私を抱きしめようとしていてくれるから……。
勢いよく飛び込んだ彼の腕の中、久しぶりに感じる香りに包まれたら、また涙が出た。
「副社長っ……」
涙声を押し殺すように彼の胸元に顔を埋めたのに、ゆっくり離された身体は独特な距離を取る。