副社長のイジワルな溺愛

 キッチンを借りて、軽食を作っておく。
 今日は外部からのお祝いもあって、その対応に追われるだろうから、きっと食事も済ませてくる可能性だってある。


 どうやって出迎えようか考えていたら、あっという間に時間が経っていた。
 そして、日付が変わった頃、玄関の明かりがセンサーで灯った。


「おかえりなさい!」
「ただいま……ごめん、遅くなった」
「大丈夫です」

 スリッパの音を軽快に鳴らして、靴を脱いでいる彼の元へ駆け寄る。


「慧さん」
「なに?」

 じーっと見上げると、彼はきょとんとした顔で私を見つめ返す。
 絶対に彼しかいないのに、こういう時までちょっと意地悪をするのが彼らしい。

 負けじと見つめ返していたら、根負けしたのか彼がふと表情を崩して微笑んだ。



「たったひとり、茉夏だけを守る。茉夏が愛していてくれたら、俺はそれで十分幸せだから」

 抱きしめられ、耳に落とされたキスがまだ少し冷たい。
 私はトレンチコートの中に腕を忍ばせて、スーツの上から彼を抱きしめ、愛しい温もりを求めた。


「これからどんな未来が待っていても、お前を離さない。……文句はないよな?」

 涙を零して頷くと、彼は私だけが知っている甘い笑顔を浮かべ、誓いのキスにゆっくりと顔を傾けた。


               ― fin ―
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