副社長のイジワルな溺愛

 こんな居心地の悪さは、生まれて初めてだ。
 学生時代も普通に過ごしてきたし、就職してからも大きな波もなく平坦な時間を繰り返してきたのに。


「深里さん、ちょうどよかった。これ再確認して対応をお願いね」
「あ、はい」

 つい先日完了した領収書の束を渡され、デスクに置く。
 データ上で詳細は入力してあるけれど、領収書の原本だけはしっかりと管理しておく必要がある。
 ファイリングする前に、日付や割印、経理担当者の印が漏れがないか再々確認する作業だ。ランチ終わりの満たされた状態では眠くなりそうだけど、意外と嫌いじゃない。


 ……あ、倉沢さんのだ。彼が提出してきたものを見つけるだけで嬉しくなる。印漏れなんかがあったら、構造設計グループに行って話せるんだけどなぁ。

 人の小さなミスに期待しちゃいけないって分かってても、接点を増やしたくてつい探してしまった。


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