誰も知らない彼女
直したばかりのメイクが少しずつ落ちていき、その崩れた顔が私の胸に埋まった。


「うぅっ……そんなこと言ってくれるの、抹里だけだよ……。私が怒りの感情をぶつけたら、親が逃げちゃうもん……。優しすぎるよ抹里……」


今の爆発した気持ちは他の誰かにもぶつけたようだが、ほとんど話の内容を聞かずに睨みだけで逃げていったらしい。


由良が二度目のメイクが崩れた状態でも私の胸に顔を埋めて泣き続けるのは、言い返す人がいなかったからかもしれない。


若葉に嫌がらせを実行していたときとは違う、弱々しい姿だ。


由良としては今の姿を誰にも見せたくなかったかもしれないけど、気持ちにまかせてありのままの姿を私に見せたのだろう。


「抹里……やっぱり抹里は私の親友だよ。よかったよぉ……」


弱々しく作られた握り拳が私の鎖骨あたりに軽く当たり、少し痛みを感じる。


だけど私は嬉しかった。


由良が私のことをちゃんと親友だと思ってくれたことがなにより嬉しい。


私の言葉が由良に響いたのかどうかはわからないけど、とりあえず落ち着いてくれたみたいだ。


数分ほど私の胸の中で泣き続けたあと、再びメイクを直し、鏡の前で由良がニッコリと笑ってみせる。


いつまでも現実から目を背けたままではまったく前に進まないという新たな強い気持ちが芽生えたのだろう。


そう信じていたい。
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