誰も知らない彼女
普段の私ならここであとずさりをするけど、由良の気持ちを少しでも楽にするために、涙でうるませながら睨む目をしっかりと見据える。


こうするしかない。


「たしかに、私は誰かを恋愛的な意味で好きになったことは一度もないよ。由良の好きな人のことだってなにひとつ知らない。だけど誰かを好きになっても、由良の好きな人のことをひとつでも知っていても、私はさっきと同じこと言えるよ。だって、悲しい現実に目を背けても前には進まないもん。好きな人が死んだとか行方不明になったかもしれないと思うんじゃなくて、きっと無事でいるっていう前向きな気持ちを持たなきゃ進まないんだよ」


そう。


好きな人と連絡が取れなくなったときには死んじゃったのかとか行方不明になったのかと考えるんじゃなくて、絶対に自分のもとにやってくると信じることが大事だ。


つまり、ポジティブな気持ちを常に抱いて行動したほうがいいということだ。


そうすれば気分も明るくなるし、前向きにものごとを考えられる。


たとえ受け入れたくない現実をまのあたりにしても、前向きに考えなければ進まない。


少なくとも私はそう思っている。


首を何度も上下に動かし続けてから十数秒、由良の目から滝のような涙があふれでてきた。


今まで私に隠していた感情があふれたのだろう。
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