誰も知らない彼女
若葉の利点であった賢いということまでもがデメリットに変わった時点でおかしい。


秋帆たちの言葉を訂正する者は、誰ひとりとしていない。


怖いけど、言葉を訂正することができるのは私だけかもしれない。


ごくっと唾を飲み込み、意を決したように顔をあげた。


「あ、あのさ……」


私が秋帆に話しかけようとしたそのとき。


3限のはじまりを知らせるチャイムが鳴った。


その直後、ガラッと教室のドアが開いて、そこから世界史担当の先生が現れた。


逃げるように自分の席に戻っていく秋帆たちをただ呆然として見送ることしか、私にはできなかった。


しょうがない、授業が終わったら話すしかないな。


ふぅ、と息を軽く吐いて自分の席に座る。


世界史の教科書を机の中から出したと同時にふと隣の席に視線を向ける。


私の隣の席にいるはずのいっちゃんの姿がない。


今朝のホームルームで担任の先生は休みではないと言っていたから遅刻してくるのかなと思ったけど、3限になってもいっちゃんは現れない。


どうしたんだろう。


彼女が休むことはこれまで何度かあったけど、だいたい体調不良を理由にしていた。


担任の先生はいっちゃんのこと、心配していないのかな。


先生も、警察の人に怯えていたりして。


なんて、そんなわけないか。


少なくとも先生はそんな人じゃないよね。
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