誰も知らない彼女
こくんと力強くうなずいたそのとき、再び教室のドアがゆっくり開いた。


世界史担当の先生が開けたドアとは違うドアが開いたため、クラスメイトのほとんどはそのことに気づいていない。


だけど私は席が一番うしろなので、反射的にパッとそちらに視線を向けた。


開けられたドアからいっちゃんが姿を現した。


いっちゃん……!


やっとで来たんだ、よかった。


ほっとひと安心したが、いっちゃんの表情を見てすぐに声をかけるのをやめた。


カバンを肩にかけて重い足取りでやってくる彼女に、違和感を感じたのだ。


普段なら元気よく挨拶をするのに、いつも笑顔の顔はまるでなにかに取り憑かれたように青白く血色が悪い。


目の下には、遠くで見てもわかるくらいにくっきりと濃いクマができている。


きれいにセットされていた髪もボサボサ。


制服はアイロンをかけていないのかシワだらけ。


いつも身だしなみに気を遣ういっちゃんがこんな格好で学校に来たことが今まであっただろうか。


数日前に見た由良とは正反対の表情だ。


そんな表情を気にする様子もなく、私の隣にストッと腰を下ろすいっちゃん。


さっきからこちらに目も合わせようとしない彼女の横顔をじっと見つめる。


いつも隣で見る横顔ではないことに、少し目を見開く。
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