誰も知らない彼女
目を閉じながら心の中でつぶやいていたうちに、腕を引っ張っていた手がスッとゆっくり離された。


それと同時に、いっちゃんが言ってた『誰もいない場所』までやってきたのだと推測できた。


どうやら私があれこれと心の中で話していた間に、その場所までたどり着いたようだ。


パチッと目を開けてみると、そこは雑木林が一面に広がっている校舎裏だった。


誰もいない場所となったらここしかないと考えたのだろう。


他にも誰もいない場所はあったかもしれないが、今は昼休みなので、サボるにはうってつけの場所にも誰かいると考えたようだ。


わけもなくあたりを見まわしたあと、おそるおそるいっちゃんの顔を横から覗く。


「どうしたの? こんなところまで来て……。そんなにバレなくないことでもあったの?」


まだ顔色は悪そうだ。


私をここまで連れてきても、そう簡単に顔色はよくならないらしい。


じっといっちゃんの顔を見つめて、あることに気づいた。


表情が暗くて顔色が悪いだけでなく、頬がこけてげっそりしている。


秋帆たちに誘われても断ったのは、食欲がなかったというのもあるかもしれない。


いっちゃんも秋帆と同じくらい食べるほうだ。


そんないっちゃんの頬がこけているなんて、食欲を失わせた原因がそれほど大きいと考えてもいい。
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