誰も知らない彼女
こくんと力強くうなずいた私を見て、彼女は安心したような軽い息を吐いた。


だけどそれはほんの一瞬で、すぐに私の腕を引っ張って早歩きで歩きはじめた。


いっちゃんは早歩きだけど、私は彼女に引っ張られているせいで小走りになっている。


廊下に出たとき、吹き抜けになっている下の階が視界の端に映り、そこから秋帆たちがゲラゲラと笑いながら体を手すりに預けている姿が見えた。


由良がいるときとはまた違った表情を見せる秋帆たちに、胸がチクッと痛くなる。


胸の痛さは、針の先が指先に刺さったような、さほど痛みを感じないほどの痛さのはずなのに、普通に痛みを感じるときよりも痛いのはなぜだろう。


嫌な予感がする。


もしかしたら、あの事件がきっかけで、私たちのグループが分裂するかもしれない。


それだけはどうしても避けたいところだ。


たしかに由良と秋帆はどちらも短気ですぐに機嫌が悪くなる苛烈な性格の持ち主だ。


争いごととなるとふたりとも譲らないし、どちらかが先に負けを認めるまで争うこともあった。


性格が似ているぶん反発することも多いふたりだけど、今まで仲よくやってきた。


仲よくなるために積み上げてきた努力が水の泡になったら、もう二度とやり直すことはできない。


せめて高校を卒業するまではグループが分裂しないでほしい。


そう願うしかない。
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