誰も知らない彼女
頭の中で死体遺棄事件の真相を追おうと思考をめぐらせていると、急にいっちゃんがこちらに顔をあげた。


いきなりのことだったので、さすがの私もびっくりして鳥肌が立った。


だけど、それよりもびっくりしたのはいっちゃんの顔だった。


両手で顔を覆っている間になにをしたかがすぐにわかるような表情がそこにある。


由良や秋帆とは違ってメイクはしていないけど、メイクをしていなくてもどれだけ泣いたかわかるくらい。


そう、いっちゃんは泣いていた。


涙のせいでぐちゃぐちゃになった彼女の顔を見てさらに目を見開く。


「い、いっちゃん……どうしたの?」


さっきと同じ質問をしたけど、いっちゃんはその質問をはじめて聞いたかのような表情を浮かべる。


しかし、そうとはいっても顔は涙でぐちゃぐちゃな状態。


制服の袖で涙をぐいっとぬぐい、すくっと立ちあがったいっちゃん。


私の真正面で向かい合ったあと、いっちゃんが口を開いた。


「抹里ちゃん。私の話、聞いてくれる?」


「う、うん」


さっきまで泣いていたのがまるで嘘だったかのように真剣な顔をする彼女に戸惑いながらも、とりあえずうなずく。


私がうなずいたのを確認して、いっちゃんはぐっと拳を作りながら視線をアスファルトに落とした。


今にも泣いてしまいそうな顔で必死に涙が出てくるのをおさえているように見える。
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