誰も知らない彼女
少し涙目になっているが、どうにか涙をこらえて私に話しはじめる。


「……あそこの雑木林、なにがあった場所かわかるよね?」


「う、うん、わかるよ」


そこから?


話題がそこからなのかと思ったが、うなずいた以上は話を最後まで聞かなければならないのでそれは言わない。


「あそこで死んでた人、遺体が見つかった当初は身もとがわからなかったんだけど、数日前にニュースで見たら……」


私が、雑木林の中でいったいなにがあったのかを知っていると信じているためだろうか、いっちゃんはペラペラと話していた。


しかし、そこまで言ったところで、彼女の目に再び涙が浮かんできた。


しかも止めようとすればするほどあふれてくるような涙だ。


おさえていた涙がまた出てきそうになると自分でもわかっていたらしい彼女は、人さし指で目もとをおさえて言葉を途切らせる。


いっちゃんがそこで言葉を止める理由は、だいたい想像できる。


だけど聞かなければ気が済まなかったので、思っていたことをそのまま口にする。


「……その死んだ人が、いっちゃんにとって大事な人だったの?」


“大事な人”。


いっちゃんにとってそれは家族か親戚だろう。


私がもしその質問をされたら、すぐに答えが見つからない。


両親、親戚、親友の由良や秋帆たち、それに合コンで出会った磐波さん。


全員、私を前向きにさせてくれる大事な存在だ。


この中でひとりも失いたくない。
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