誰も知らない彼女
他校に通っていたいっちゃんの恋人を死に追いやった犯人がまだわからないのに、気をつけたほうがいいと言われても困る。


犯人の目星がいまだについていないということは、いつどこで自分が狙われてもおかしくないのだ。


それに犯人が捕まってないならなおさら。


殺される可能性は十分ありうる。


苦いものでも飲んだような顔をすると、突然いっちゃんが顔をあげて大声で泣き叫んだ。


それはまるで生まれたばかりの赤ちゃんの泣き声よりも暴れているようで、同級生がここまで泣くとは思わなかった。


いくら誰もいない校舎裏でも、赤ちゃんよりも大きな泣き声をあげたら、偶然通りすがった生徒たちがなにごとだと騒いで駆け寄ってくる。


騒ぎにならないうちに彼女をなだめようとすると、上の階の窓がガラッと開いて、そこから誰かが顔を出した。


「ちょっとなに⁉︎ うるさいんだけど!」


バッと顔をあげて、窓を開けて怒鳴る人物が秋帆だとわかった。


「あ、秋帆⁉︎」


泣きわめくいっちゃんをスルーして驚く私に、顔を真っ赤にしていた秋帆がギョッとした顔でこちらを見た。


秋帆の顔から徐々に熱が失われていくのが遠目でもわかる。


「えっ、抹里⁉︎ なんでそこにいんの⁉︎」


私が校舎裏にいるとは思っていなかったのか、目を大きく開けている。


しかも目をしばたたかせているので、相当びっくりしているのだろう。
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