誰も知らない彼女
私が慌てて落ち着かせようとしたが、由良は逆にイライラした口調で叫んだ。


落ち着いていられるかって言われると、なんて言えばいいかわからなくなる。


なにも言えずに黙っている私を完全にスルーして、由良が話を続けた。


『……はぁ。あのね、抹里は気づいてないかもしれないけど、抹里は可愛いからストーカーに狙われるの! 私だけじゃなくて、秋帆もネネもえるもそう思ってるよ、絶対に!』


由良は私のことをそう思っているのかもしれないけど、秋帆たちが由良と同じことを思っているなんて言いきれないと思う。


ちなみにネネとは秋帆とよく一緒にいる女子生徒のことで、えるは私たちのことを“さん”づけして呼ぶ女子生徒のことだ。


秋帆とネネは表では私を守るようなことを言うけど本音はわからないし、えるはもともとおとなしいほうだから本心がわからない。


でも4人のうちの誰かではないことに関しては、私とまったく同じ気持ちだ。


心の中でそうつぶやいたところで、不意に若葉の姿が脳裏をよぎる。


「視線の正体は朝丘さん、じゃないよね……」


私と関係のある人物といったら、由良たち以外では若葉しかいない。


見た目からして、若葉が誰かを尾行したりストーカーしたりするようなことはしないと思うけど……。
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