誰も知らない彼女
なんて思た数秒後、若葉のうしろ姿が突然ピタリと止まった。


急なことだったので、私は思わず彼女の背中にぶつかってしまいそうになった。


若葉が止まったのは、誰もいない階段の踊り場だった。


彼女が立ち止まったところでさっそく質問する。


「……朝丘さん、話ってなに?」


私がそう言った瞬間、若葉は一瞬目を見開いたが、すぐにいつもと同じ微笑みを見せた。


「じつは榎本さんにしか頼めないことがあってね。私、今週の土曜日に合コンに行くことになったんだけど、あともうひとり女子が足りなくて……」


合コン⁉︎ 若葉が⁉︎


そんな単語が若葉の口から出ることに驚きが隠しきれない。


てっきり若葉は彼氏でもいるのかと思っていたけど、もしかしたらいないのかな?


顔は申しぶんないから、すぐに彼氏できると思うんだけど。


若葉に彼氏がいないのはちょっと意外。


って、えっ。まさか……。


「だから、私が参加する合コンに榎本さんもどうかな?」


そのまさかだった。


私が、合コンに? 若葉と?


そう思ったところで叫びたくなった。


だけどここが学校であることだと気づき、思いとどまった。


「……え、えっと、他の女子には頼めないの?」


感情を押し殺してこう言うしかなかった。


案の定、若葉は苦笑いを浮かべて私から視線をそらした。
< 22 / 404 >

この作品をシェア

pagetop