誰も知らない彼女
☆☆☆
次の日の休み時間。
4限の授業の準備をしていると、突然誰かに声をかけられた。
いや、誰かなんてもうわかっている。
「榎本さん。話があるんだけど、いい?」
若葉だ。
私の周りを囲う女子たちが由良や秋帆を含めて教室にいないので、若葉がすんなりと私の席まで歩み寄ってきた。
私が若葉の呼び出しを断る理由があるわけもなく、疑問を感じながらもうなずく。
「……うん」
若葉の近くに若葉サイドの女子たちがいるのかとあたりを見まわすが、幸か不幸か近くにいるのは若葉だけだった。
私がこくんとうなずくと、若葉は天使のような微笑みを見せた。
この笑顔を見てもなお、由良や秋帆たちが嘘くさいと思っていることに、悲しみを覚えてしまう。
心の中でため息を吐いたと同時に、若葉がスタスタと早歩きで教室をあとにする。
足速いな、と思い、若葉のうしろをついて歩く。
若葉って、運動神経いいほうだっけ?
清純な印象が強いから、運動神経がいいのかなんて考えたことがない。
まぁ、そんなことは今考えなくてもいいよね。