誰も知らない彼女
私は豆粒のように小さな姿の若葉を視界に映しながら指をさした。


「ねぇふたりとも。もうすぐ朝丘さんが来るよ?」


おそるおそるそう言った直後、ふたりは目を見開いた。


「えっ、マジ⁉︎ あいつもう来るの⁉︎」


「ちょっと待って! いきなり来るなんて聞いてないんだけど!」


「いやいや私もだよ!」


慌てて教科書や参考書をしまうふたりに思わずツッコミを入れてしまう。


私も突然若葉が来るなんて予想してなかったから。


そう思っている間に、1限の終わりを知らせるチャイムが鳴り響いた。


途端にザワザワしはじめ、その騒ぎを振りきるように秋帆たちがやってきた。


「朝丘、1限来なかったよね? まったく、あいつはなにを考えてんのかね」


腕を組みしかめっ面の秋帆が心の底に怒りをためているのがわかった。


自分と同じ気持ちだと安心したのか、由良が秋帆に話しかけた。


「ねぇ、秋帆。その朝丘、抹里を騙してるんだって知ってた?」


由良の言葉を聞いた秋帆の表情が険しくなる。


「は? なに、どういうことよ」


だから若葉は私を騙してなんかないよ。


証拠はないけど。
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