誰も知らない彼女
自分の持ち物の凄惨な姿に、若葉は目に涙を浮かべた。


「ひどい……誰がこんなことを……」


体操服は原型ととどめていなくて、ほとんど燃えかすになっていた。


クラスメイトたちは若葉が泣いている姿を見てクスクス笑っていた。


泣いてるなんて時間のムダでしょ。


調子に乗ってることを理解して、早く反省しろよ。


若葉に言葉を投げかけるクラスメイトはいなかったが、そんな言葉がにじみでているように感じた。


この事態を見て、さすがに私も放ってはおけなかった。


だけど若葉に話しかけようとすると、それを止めるように他のクラスメイトが私を取り囲んだ。


「榎本さん、大丈夫?」


「若葉があんなことするなんて許せないもんね。心配しなくていいよ」


「本当最悪だよな。まさか朝丘が榎本を騙すなんてさ」


「最初から朝丘さんは腹黒だって思ったんだよね」


若葉に向ける目とは違い、本気で心配しているような目を私に向ける。


本当は騙されたわけではないかもしれないけど、そんなことを話しても誰も信じないような気がした。


だから黙っているしかない。


そうすることしかできない自分が少し情けないと思った。
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