誰も知らない彼女
さっきまで見ていたところをバラしたくなくて、若葉から目をそらす。


この体育館内に若葉がいることを、由良と秋帆に伝えたらダメだ。


「な、なんでもないよ……」


結局、なにごともなかったかのように笑顔を振りまいておくことにした。


反応を見るのが怖いので、無意識にやっていた準備運動を再開する。


だが、私が準備運動をはじめてからわずか十数秒で、由良が「あっ」と声をあげた。


ギクッ!


私がさっきまで見ていたところに若葉がいたことがバレたかも。


背中に変な汗が流れてくるのを感じるが、意識は由良のほうに向けられていた。


どうかバレませんように。


心の中で必死にそう祈るが、私のその祈りはもろくも打ち砕かれてしまう。


「秋帆、ステージ側にいるのって朝丘じゃない?」


すぐにバレてしまった。


ガクッと肩を落としたと同時に、秋帆の声も聞こえた。


「うん、あれはたしかに朝丘だね。体操着がみんなと全然違うもん」


やはり秋帆も由良の声で若葉がいると知ってしまったようだ。


これからふたりが起こす行動は目に見えている。
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