誰も知らない彼女
ふたりは嫌がらせの主犯格だから、若葉に嫌がらせを実行させて、加害者全員に協力させようとするんだ。


わざと若葉の存在をみんなに知らせて彼女に居場所を与えないつもりだ。


どうしよう。


もしふたりが今、若葉をおとしいれることを考えていなかったとしたら……?


言うべき? 言わないほうがいい?


頭の中で自問自答を繰り返してしまう。


言うべき。


でも、本当にふたりが別のことを考えている場合もあるかもしれないでしょ?


言わないほうがいい。


でも言わないままふたりが若葉への嫌がらせを実行してしまう場合もあるでしょ?


ぐるぐると考えがまとまらないでいると、生徒が使う入り口とは異なるドアからジャージ姿の女性教師がやってきた。


その女性教師は長い髪をうしろでひとつにまとめている。


「はーい、みんな集まってー!」


首からさげたホイッスルを鳴らして、館内にいる女子全員を集める。


耳に響くその音で私も先生のもとに駆け足で歩み寄る。


集合したあとチラリと若葉のほうを見るが、若葉はまったく動こうとしない。


それどころか、若葉はステージのそばから離れずにしゃがんでいる。


よほど私たちがいるところに集まりたくないのだろうか。
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