誰も知らない彼女
彼女の本名が飯場 市加(いいば いちか)であることから、私たちを含めた女子のほとんどからそう呼ばれている。


そうか、いっちゃんでもいいか。


いっちゃんも私たちのグループと仲がいいから、えるでも接しやすいだろう。


私が思っていたことが当たったのか、えるが安堵の表情を浮かべた。


「うん。高島さんたちとペアが組めなくても、いっちゃんとでも大丈夫だと思う！」


えるが言いながらオッケーサインを出したタイミングで、由良がひとりであたりを見まわすいっちゃんに声をかけた。


「おーい、いっちー！ こっち来なよ！ えるのパスの相手になってよ！」


そう。由良はいっちゃんと中学のときからずっと仲がよかったので、由良だけはみんなとは違うニックネームで呼んでいる。


私がいっちゃんと仲よくなったのは入学したころだけど、由良のサポートもあったこともあり、距離が縮まったのだ。


そんないっちゃんが由良の声に気づき、笑顔でこちらに駆け寄る。


「あっ、由良！ えるっちのパスの相手を私に？ そんなんいいに決まってんじゃーん！」


すごく嬉しそうにそう言ういっちゃんの姿を見て、私を含めた全員が満面の笑みを浮かべた。
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