過保護な騎士団長の絶対愛
「お願い、無茶はよして」

 こんな感情的なイザベルを見たのは初めてだった。ユリウスの目線の先には彼女の長く整えられた真っ赤な爪。

「あなたがララ様に恩義があるように、私にもあなたに恩義があるの……あなたがララ様を大切に思うように、私もあなたのことが大切なのよ」

 震えるイザベルの声とともに切ない吐息がユリウスのうなじをかすめる。しかし、ユリウスはイザベルの抱きしめる腕に応えることはできなかった。

「あなたのことを愛しているの」

 後ろから横に身体をずらし、イザベルはそっとユリウスの両頬を、冷たい手で包み込んだ。

「イザベル、やめるんだ」

 イザベルはユリウスを本気で愛していた。いつも冗談めいたことばかり言っていたくせに。

 イザベルがユリウスをゆっくりと引き寄せ、その唇に自身の唇を重ねようとしている。


 ――ユリウス!


「ッ――!!」

 ふと、頭の中に自分を呼ぶララの声がした気がした。

「やめろ、イザベル」

 ユリウスがそっと女性の矜持を傷つけないよう手でイザベルをやんわり押し返す。その声は一寸の迷いもない、ララへ向けるユリウスの心を象徴していた。
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