過保護な騎士団長の絶対愛
「きゃっ!?」


 背後から思い切り衝撃が走り、前につんのめって転びそうになった。慌てて体勢を整えて振り返ると、大柄な髭の男が鬱陶しそうにララを見下ろしていた。


「店の前でぼさっとつっ立ってんなよ、邪魔くせぇな」


 その男は店からちょうど出てきたところで、破けた上着に今にも擦り切れそうなブーツを履いていて、身なりから低俗な人間だとわかる。


「すみません、店の前で立ちふさがってお邪魔してしまったことは謝ります。でも、わざとぶつかることはないでしょう?」


 気圧されることなくララは自分よりも二十センチは高いその男をぐっと睨んで見上げた。


「あんまりちっせぇから見えなかったんだよ。ほら、邪魔だ邪魔だ」


「あっ!」


 男がララを払うようにして足を踏み込んだその時、頭にあるはずの髪飾りが男の足元に見えて、ララは慌てて手を伸ばしたが遅かった。男の足裏が地面から離れると、無残にもユリウスから買ってもらった髪飾りが潰れて姿を現した。どうやら、この男に突き飛ばされた弾みで髪飾りが取れて落ちてしまったようだ。


「ひどい……」


 先ほどまでララの髪を華やかに飾っていた造花のトレイビーの花が土に薄汚れて見る影もない。幸いにも金の部分は折れてはいなかった。ララはそれをそっと拾い上げるとポケットにしまった。そしてララは人ごみに紛れてなにも言わずに立ち去ろうとするその男の背中をぐっと睨みつけた。


いつもなら怒りをぐっと堪えてしまうのに、ユリウスに買ってもらったと思うと、なおさら頭に血が上って冷静ではいられなくなる。


 許せない――!

 悪いことをしたら謝罪する。そのことをあの男にわからせてやらなければ気がすまなかった。


「待ちなさい!」


 ララは地面を蹴って今にも見失いそうな男の影を追った。
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