過保護な騎士団長の絶対愛
 おかしいな、こっちに行ったと思ったんだけど――。


 大柄のくせに予想外に歩くのが早く、ララはすっかり男を見失ってしまった。夢中で走ってきたため、ここが一体王都のどの位置なのかもわからない。


明らかに中心街とは雰囲気の違う空気に嫌な予感がする。店もなく、廃墟のような建物が並んでいる。野良猫たちがララをまるでよそ者を見るかのような目で瓦礫から見つめていた。


 路肩を見ると昼間から酔っ払っているのか、はたまた何かの麻薬中毒を起こしているのか、無精ひげを生やした老人がしゃがみこんでいる。目が合うとニヤニヤして、ぞくっと鳥肌が立って怖くなったララはさっと目を逸らした。するとその時、服を下から引っ張られる感覚がして、ララはその方へ目をやった。

「お姉ちゃん」


 あどけない顔をした五歳くらいの少年がララの服を掴んで見上げていた。


「あら、どうしたの?」


「たべもの、ちょうだい」


 慈愛心をくすぐるような物乞いにララは戸惑う。


 物乞いはどんな平和な国でも存在する。しかし、安易に物を渡してはいけない。なぜなら、物乞いで生活することを覚え、働くということをしなくなる恐れがあるからだ。


「たべもの、ちょうだい……パパにおこられる」


 今にも泣きそうな男の子を前にララはどうしていいかわからなくなってしまう。
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