過保護な騎士団長の絶対愛
「染色粉よ、染まった髪は洗えばすぐ落ちるわ」


 この手の代物が作れるのは薬師のイザベルだけだ。その昔、コルビスの軍事行為の一環として他国へ潜入した時に重宝したいわゆる変装の道具だ。


「これで今度の舞踏会でララ様に近づくって、警護以外にも目論見があるんでしょ?」


「うるさい。ララ様にどこの馬の骨かもわからない外道に近寄らせるくらいなら――」


 イザベルについムキになって反論すると、彼女は腹を抱えて笑いだした。


「まったく、あなたはララ様のことになると形無しね」


 そこまで言われると、なんだか気恥ずかしく思えてくる。自分のしようとしていることは滑稽なのだろかと思わされる。


「でも、仮面舞踏会なんだし、そんなものなくてもバレないんじゃない?」


「いや、ララ様は意外と敏感なところがあるからな。それにこれはモリス様のご命令だ」


 ユリウスがイザベルの言い値の金額を支払うと席を立った。


「長居した。戻る」


「王都のことは何かわかり次第、この子を飛ばすわ。ね、ティナ」


 イザベルの肩に止っている白い小鳥がクエッと返事のように鳴いた。
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